Sound

天若湖のサウンド

天若湖水中録音

 これは、平成24年11月16日に行われた、天若湖の水中の音を録音した出来事がベースになった作品です。水中録音の第一人者山崎久勝氏をお招きし、日吉ダム管理所に船を出していただいて、ダム湖各所の水中音を録音しました。
 山崎さんは、北海道開発局の依頼で水中の砂礫の移動を音から探査する研究をなさったり、魚たちがたてる微小な音を捉えたりといったことをなさってきた、技術畑の方ですが、そのビジョンと成果は、アートのフィールドにも強く訴求するものを持っています。琵琶湖の湖底の水流の音をCDにしたりなさっています。
「滋賀ガイド」より 山崎久勝氏 紹介記事
 
 今回ご紹介する映像作品は、当時実行委員として活動していた中塚智子さんが、山崎さんが収録された水中音に、ご自身のピアノや下村実行委員長のホーメイ等をミックスして、一つの作品としてまとめ上げたものです。中塚さんが山崎さんと船に乗り、音と風景を共にしながら作った作品です。湖上の時間の流れを感じていただければ幸いです。


世木青年の歌

 湯浅敏夫さんは、1961年の宮村ダム構想発表からダム開発と地元との第一線に関わってこられた方でした。私たち天若湖アートプロジェクトの実行委員には、昔の筏が行き来していたころの穏やかな上世木集落のこと、終戦直後にできた世木ダムが地域にもたらした苦しみのことや、その後の日吉ダム事業へどのように対峙したかなど、さまざまなお話しを伺いました。
 「あかりがつなぐ記憶」やその関連展覧会には、いつもお孫さんを連れて来てくださいました。そこには、水没地域の記憶を伝えたいという想いがあったのだと思います。
 今回紹介する「世木青年の歌」は、2007〜2008年頃に実行委員会がインタビューを重ねる中で出てきたものです。天若分校(沢田集落、その後の天若保育所)に、校歌のようなものはなかったのですか?という質問に対し、地域に出入りしていたエンジニアの方が作ってくれた歌があった、として歌ってくださったのが、この「世木青年の歌」です。
 タイトルから推測すると、分校の校歌というよりは、戦後の青年会活動のために作られたものかとも推測されます。山間を流れる大堰川とそれが潤す大地が表情豊かに歌われる歌詞は、この地域の風景をよく伝えるものです。
 
 みどりいろ濃き山あいに
 胸はたかなる大堰の流れ
 微笑む大地踏み締めて
 われら元気な世木男児
 
 敏夫さんは、この2020年9月に亡くなりました。この歌の2番3番やその成立経緯のことなども含め、もっともっとお話を伺っておけばよかったと思っています。
 「あかりがつなぐ記憶」の現場にも何度も足を運んでくださった敏夫さんは、地域の記憶の継承を何より望んでおられました。ここに「世木青年の歌」を掲示させていただき、謹んでその意志にお応えしたいと思います。
 オルガンバージョンは、当時の実行委員が敏夫さんのお歌を採譜し、日吉町郷土資料館のオルガンで演奏したものです。当時の天若分校のオルガンからも、このメロディが流れていたのでしょう。

世木青年の歌
(湯浅さん歌唱バージョン)

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世木青年の歌
(オルガンバージョン)

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湯浅敏夫さん インタビュー

天若湖アートプロジェクトでは、2009年にガイドブック「あかりがつなぐ記憶 天若湖アートプロジェクト」(キョートット出版)を刊行しました。その冊子に乗っている湯浅敏夫さんへのインタビューです。「世木青年の唄」のことや水没した故郷への想いについても書かれています。
画像をクリック/タップすると拡大してご覧いただけます。


天若湖は歌っている(2013〜2020)

京都府南丹市、桂川上流域に建設された日吉ダムによって1998年に生まれた天若湖は、人間の手によってその貯水量を管理されており、一年を周期として水位の上下を繰り返しています。本動画の音声は、日吉ダム管理所が発表している「貯水量」「流入量」「放流量」の数値を音程に置き換えたものです。
一日が約0.285秒、一年が約1.7分となります。
音場の中央で上下動を繰り返しているのが「貯水量」、左と右で普段は低く時折突発的に鳴るのが、それぞれ「流入量」と「放流量」になります。
天若湖の水位は一般的には冬季には高く保たれ、夏季には台風を待ち受けるように低く抑えられます。
この一年周期の運動は、基本的にはどの年にも共通して見られるパターンですが、同時に年ごとの気象条件等が異なるため、その動きは毎年異なり、二度と同じ繰り返しにはなりません。
今回音声データを作成した2013からの期間は、
・2013年9月の台風18号
・2018年7月の台風7号および梅雨前線
の二度の危機的な豪雨を含みます。また2018年から2019年にかけては、冬季においても例外的な低水位となる操作が見られます。
そうしたことが、この音の連なりの中でもはっきり聴きとることができます。
呼吸するように上下動を繰り返す湖面の息吹を、この音声から聞き取っていただければ幸いです。

天若湖アートプロジェクト実行委員会
下村泰史